時代が変われば時代の要請も変わるだろう。
それでも、沖縄の小さな街の大きな理想がかたちになった名護市庁舎には、時代を経ても変わらない何かが、夕方の心地良い風とともに流れていた。
モダニズムからポストモダンへと移行していくなか、
アメリカの建築批評家ケネス・フランプトンによるクリティカル・リージョナリズム(批判的地域主義)が1981年に提唱されるが、
まさしく地域と風土性とは何かと言うものが問われてきた時代。
そのような時代の中、「沖縄における建築とは何か」、「市庁舎はどうあるべきか」という二つの問いかけに、一見すると地域主義的な考え方が強く押し出されているようで、
でも実は機能主義的なデザインが垣間見えるところも興味深く、
竣工から30年経った現在でも新鮮な空間体験をもたらしてくれる貴重な建築。
屋根も壁もブロックの隙間だらけ。
それが沖縄の強い陽射しを受け、幾何学模様の美しい陰を作り出している。
視界が向こうまで抜けていき、圧迫感がない空間。
2階、3階には沖縄の伝統的なコミュニケーション場「アサギ」を生かしたアサギテラスが作られている。
アサギテラスには植物が植えられ、水が張られ、憩いの場であると同時に、空調も兼ねており、風が頬を撫でていく。
”あぁ沖縄だな”と思ってしまう。
1階入口には、英語で「CITY HALL」と書かれている。「CITY OFFICE」ではなく。
まさしく市民のための庁舎がさりげなく表現されている。
沖縄には「ガジュマル建築論」というものがある。
ガジュマルとは沖縄に植生する南方の大木だが、外見はとても異様で近寄りがたい。
その大きな枝は、太陽の強い日差しを遮り、濃い影を作り出す。
そこは風が通り、とても涼しくて心地よく快適で、これ以上の空間はない、と言ったもの。
名護市庁舎はこのガジュマル建築論をものの見事に体現したのではないだろうか。